発端はアポロ計画
もともとHACCPは、宇宙食のために開発された技術です。アメリカのアポロ計画で地球から離れた宇宙飛行士に食品事故が起こってしまっては困ります。医者や薬がそこにあればよい、という話ではありません。宇宙飛行士には寸暇を惜しんで重大な使命があるのに、腹痛を起こして他の人に手間をかけさせていては、アポロ計画が根底から覆ってしまいます。それで、具体的にどうしたのか?
宇宙食の「危ない」ところを特定する
まず、宇宙食を食品事故の起こりやすさの面から分析します。
宇宙食に虫の死骸や髪の毛が入っていたとすると問題ですが、宇宙での活動の決定的な支障にはならないでしょう。でも、例えば「クギ」のようなものが入っていれば、見過ごすことはできません。もっと危ないのは食中毒。食中毒の原因は微生物ですが、食中毒を起こす微生物には多くの種類がありますし、やっかいなことに目に見えません。また、食物アレルギーがある場合、その影響は甚大です。
HACCPの第1段階は、食品の危ないところを分析します。これを英語では「Hazard Analysis」と言います。HACCPの最初の二文字のHAです。日本語では「危害分析」と言います。
ちなみに、私たち日本人は「危険」と言えば「リスク」と言いたくなります。そこで手許の英和辞典で調べると、hazardは「偶然、運、冒険」とあります。「食品事故なんてめったに起こることではないから、よりによって宇宙で起こることはないだろう」という「hazard=冒険」を避けるためのHACCPというところでしょうか。
「危ない」ところを集中して管理しよう
第2段階はCCPです。英語では「Critical Control Point」です。一般的には「重要管理点」と言います。これは危害分析によって特定した重要な点をきちんと管理しましょう、という考え方です。
例えば、生物は一定以上に加熱してやると死滅します。生物はタンパク質でできているので、タンパク質が変質するまで加熱すると、生物は生きていられなくなるのです。でも、加熱が十分でないと、悪い微生物がしぶとく生き残るかもしれません。
つまり、危害分析で有害微生物の対策が必要となったら、その微生物を死滅させるために必要な一定温度、一定時間以上の加熱を確実に行わなければなりません。それがCCPです。